月曜日から実家にいる。
母親が選んだイタリア製のおしゃれな猫足仏壇が
やってきたり、簡易の焼香台を解体したり、
書斎の片づけを少し進めたり、
「お父さん亡きいま、ややこしい書類が読めるのは
あんただけだ!」
と言われて法務局へ出向いたり。
持ってきた仕事をやりつつ、なんやかや忙しくて、
読もうと思った本が開けていない。
今夜は過去帳に参った。
お念仏や法名などを筆で記入するものだけど、
おしゃれを優先した現代仏壇に合わせて、すごく小さな
過去帳になっているので、難しいったらありゃしない。
母と二人で
「あんたのほうが字がうまいから書いたら?」
「いや、お母さんのほうが美しい字だよ、顔と一緒で」
「いやいや、あんたはやっぱり物書きやという趣がある」
などとなすりつけあった挙句、交互に筆を持って、
チラシの裏に何度も練習したんだけど、
「これって一生残るものやんな……」
「『南無阿弥陀仏』の字の大きさが揃ってへんで」
「法名の『釋』の字が潰れてるで」
ケチのつけあいになって、結局、二人とも、下手ってわけ
ではないんだけど、満足のゆくレベルで書き上げられない。
母はパソコンでなんとか印刷できないのかと言うけど、
過去帳なんかプリンターにセットできないし。
最終的に、二人一致で、「筆がだめなんだ」という話に
なった。
「なにしろ、夜も暗くなって、目がしかしかしてきたから
コンディション的に無理やわ」
「筆を買いなおして、初盆までにお互いに練習しておいて
書き込んだらええんちゃう?」
「それでもあかんだら、一周忌までに練習すればいいよな」
泉家の過去帳は、いつ筆が入るのだろう。